砂漠の女
石造りの建物の全体像はわからない。
ところどころ崩れたように外の空気が漏れてくる。
外には白っぽい乾いた空気と明るい日差しがあるようだ。
裾をさばき、ひるがえしながら足早に歩く女の後ろを追いかける。
その石造りの通路は細く狭く、
角をくるくると曲がるように上に向かっている。
置いて行かれないように追いかけるのは幼い私。多分当時の私と同じ年齢10歳くらいか。
やっと追いついた。
顔を隠すヴェールを深く被り目だけ出しているが、彫りの深い中東の顔立ちの美しい二十歳すぎくらいの女性だった。
長い睫毛のキッとこちらを見すえるような目が印象的だ。
捧げ物に布をかぶせた盤を持っている。
神に祀る贄だという。それを毎日ここへ運ぶのが役目だと。
その贄を捧げている方向を見て、絶句した。
ミイラ化した人が座っている。
その前へ贄を捧げるようだ。
毎日毎日、これを運ぶのが私の仕事だった。これからはお前がこの役目を引き継ぐのだよ。
そして私はここに座ることになる。
ここに座って神のことばを伝える役目となる。
お前はこれまでの私と同じように、
次の役目の少女がやってくるまで毎日毎日、贄をここに運ぶのだ。
私もいずれこのように(ミイラ化した塊の方を見て)なるであろうけれども、
神のことばを伝えることに何も変わることはない。
(ミイラ化しても伝えられるという意味らしい)
お前は贄を運ぶ役目を果たす事、それだけだ。